囲碁でつながる日本とマレーシア 視覚障害者囲碁の国際交流をしました(前編)

皆様
いつも私たちの活動にご支援、ご協力をいただき、ありがとうございます。

今回は、9月7日から11日まで、マレーシアのクアラルンプールを訪問し、視覚障害者の皆さんへの囲碁普及活動を行ってきましたので、その模様をご報告いたします。
現地では、マレーシアの視覚障害者団体や施設を訪問したほか、視覚障害者の皆さんを対象とした囲碁体験会を開催しました。

書きたいことがたくさんありますので、今回の訪問については、前編と後編の2回に分けてご報告します。
今回は、その前編です。

今回の交流が実現した経緯
今年は、マレーシアで視覚障害者支援が始まってから100周年という節目の年でした。
その記念事業の一つとして、マレーシアと日本の文化交流を目的に、囲碁を通じた交流が企画されました。
この交流は、今年3月に亡くなられた、社会福祉法人日本点字図書館の会長を務めていた田中徹二さんの願いでもあります。

田中さんがマレーシアとの交流にかけていた思いと約束を、私たちが引き継ぎ、今回の活動を実施することになりました。
田中さんの訃報については、こちらの記事をご覧ください。

日本点字図書館会長 田中徹二様の訃報について
https://aigo.tokyo/news/2459

今回、日本から同行してくださったのは、山口和彦さん、上田喬子さん、青柳泰平さんです。
3名とも、普段から私の囲碁普及活動に協力してくださっている、心強い仲間です。

1日目 視覚障害者団体や施設を見学

金色の記念切手をデザインしたポスター。 中央に大きな目のような図案と白い杖のシンボルがあり、その下に「MALAYSIA」と書かれた金色のリボンがある。 上部の弧を描く帯には 「Celebrating 100 years of work for the Blind in Malaysia」 と英語で書かれている。  額の下には、横長の青い板があり、表面に点字が一直線にたくさん並んでいて、右寄りと左寄りにオレンジ色のカエデの葉の飾りが付いている。

まず私たちが訪問したのは、NCBM、国際マレーシア盲人協議会です。
NCBMは、マレーシアの視覚障害者に関する情報が集まる中心的な組織で、ここでさまざまな訓練を受け、自立を目指す視覚障害者が多いと聞きました。

就職先としては、マッサージ師が日本の視覚障害者と共通する職業になっていることが分かりました。
また、マッサージ以外にも、オーディオ制作やピアノ調律などが職業として確立されていることも、とても興味深かったです。
以前は、日本の盲学校でも職業訓練の一つとしてピアノ調律が行われていたと聞いています。
そのため、日本ではなぜ現在、ピアノ調律が視覚障害者の専門的な職業として、以前ほど位置づけられていないのだろうかと、考えさせられました。

続いて、マレーシア点字図書館を訪問しました。
ここでは、日本点字図書館と同じように、点字図書の貸し出しや視覚障害者向けの用具に関するサービスなどが行われています。
私は用具部で、香港とインドの白杖を購入しました。
実は、私はさまざまな国の白杖を集めるのが趣味です。
いつか「世界の白杖展」を開催したいという、ひそかな野望を持っています。
白杖にも、それぞれの国の文化や考え方、使う人の生活環境などが表れていて、とても面白いんです。

そのほかにも、ロービジョンセンターやMAB、マレーシア盲人協会を見学しました。

MAB(Malaysian Association for the Blind)の建物前で撮影した一枚

ロービジョンセンターでは、さまざまな形の拡大レンズを見ることができ、その中でも、一行分をまとめて拡大できるレンズは、私は初めて触りました。
私がまだ目が見えていた学生時代に、このような道具を使うことができていたら、もっと教科書を読むことができただろうなと昔を振り返ってしまいました。
少し切ない気持ちにもなりましたが、これから学ぶ弱視の視覚障害者にとって、とても役立つ素晴らしい道具であることは間違いありません。

今回の施設見学を通して感じたのは、国が違っても、視覚障害者が必要とするサポートやサービスには、共通するものが多いということです。
そして、これから視覚障害者が抱える課題についても、国を越えて一緒に考えていくことができるのではないかと感じました。

2日目 NCBMの会員とスタッフを対象にした囲碁体験会

代表柿島をはじめ、日本からの訪問メンバーで現地参加者の方に囲碁の説明をしている様子

いよいよ、今回の訪問の大きな目的の一つである、囲碁体験会です。
会場は、クアラルンプール市立図書館でした。
建物の形が丸く、とても特徴的な施設のようです。

この日は、NCBMに関わっている視覚障害者の方、約20名が囲碁を体験しました。
今回のマレーシア訪問では、ルールを教え易い小さいアイゴ7路盤を使用しました。
まずは、初心者でも囲碁の基本を体験しやすい「石取りゲーム」から始めます。

私が日本語で説明し、山口さんが英語に通訳し、上田さんは、それぞれのテーブルの参加者とコミュニケーションを取りながら指導し、青柳さんは各テーブルを回ってフォローするという流れです。
さらに、20年ほど前に日本の盲学校に留学していた経験を持つマレーシア人のアズリンさんが、サポーターとして加わってくださいました。
アズリンさんはマレー語での通訳もしてくださり、参加者の皆さんを盛り上げてくださいました。
日本チームとアズリンさん、それぞれの力が合わさり、参加者の皆さんは楽しそうにアイゴを使って囲碁を学んでくれました。

また、この体験会では、NCBMへのアイゴ贈呈式も行いました。
ここで、MABの会長であるウォンさんに19路盤のアイゴを贈呈しました。

アイゴ贈呈後に、参加者の皆さんと一緒に撮影した一枚。中央に、ウォンさんと柿島代表。二人でアイゴを持っています。 アズリンさんのFacebook投稿より拝借。

写真では、私がウォンさんにアイゴ19路盤をお渡ししています。
このとき私が着ているネイビーのシャツと、手にしている白杖は、田中徹二さんが今回のマレーシア訪問で使用するはずだったものです。
田中さんの奥様である美織様から託していただき、今回、その約束を果たすことができました。
田中さんがこの場にいてくださったら、どんなに喜んでくださっただろう。
そう思うと、胸がいっぱいになりました。

囲碁体験会での参加者の反応
参加者の皆さんは、とても積極的でした。
特に印象に残ったのは、囲碁を体験したばかりにもかかわらず、大会についての質問が出たことです。

例えば、
「大会では持ち時間などはあるのですか?」
「大会では何個取ったら勝ちですか?」
「大会に出るには、どのような条件がありますか?」
といった質問がありました。

まだ囲碁を体験したばかりなのに、すでに大会への参加を意識している。
その前向きな反応に、私も驚いたと同時に、この熱をどうやって保ちながら、マレーシアで皆さんに囲碁を続けてもらうのか。そのために私たちが何をすればよいのか。
今回の交流を一度きりのイベントで終わらせないためにも、これからもっと考えていかなければならないと感じました。

3日目 MABや各地から集まった視覚障害者向け囲碁体験会

囲碁の体験中のワンシーン

3日目も、クアラルンプール市立図書館で囲碁体験会を行いました。
この日は、前日よりも多い約25名の方が参加してくださったと聞いています。

前日にサポートしてくださったアズリンさんが不在だったため、この日は日本チーム4名で頑張りました。
やはり、母国語であるマレー語ではなく、英語を使って囲碁を説明することには難しさがありましたが、それでも、当初の予定どおり、石取りゲームまでは、ほとんどの皆さんに理解していただけたと思います。

最後の挨拶では、来年秋に日本で開催予定の「全日本視覚障害者囲碁大会」について紹介しました。
目標があれば、きっと継続するモチベーションにつながるだろうと思ったからです。
すると、MABの方から、
「何名くらい派遣すればいいですか?」
という、とても具体的な質問が返ってきました。
囲碁を体験したばかりの皆さんから、もう日本での大会への参加を考えるような言葉が出てきたことに、私はとても嬉しくなりました。

マレーシアの皆さんが、囲碁を通じて日本とつながろうとしてくださっていることを、強く感じた瞬間です。
碁には国境がない
今回の囲碁体験会を通して、国や話す言葉が違っていても、囲碁の魅力は変わらないということを、改めて実感しました。
現在、囲碁は世界約80カ国で楽しまれていると言われています。
今回のマレーシアでの交流を通して、そのことを改めて目の前で実感することができ、私自身も感動しました。
言葉が通じにくくても、囲碁盤を囲むと自然に笑顔が生まれます。
そこには、国籍や言語、視覚障害の有無を越えて、人と人がつながる瞬間がありました。
そして今回、NCBMにアイゴを寄贈したことで、これからマレーシアでも、視覚障害者と視覚障害のない囲碁愛好家の皆さんが、アイゴを通じてつながっていくことを期待しています。

日本とマレーシア。
今回の交流は、囲碁を通じて両国の視覚障害者がつながる、新しい一歩になったと思います。

後編に続く

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